保険と投資信託。
あなたはこの二つを、全く別々のものだと考えていませんか。
「保険は万が一の備え」「投資はリスクがあって怖いもの」。
多くの方が、そう思っているかもしれません。
しかし、実はどちらも「あなたの大切な資産を守り、育てる」という目的で使える、強力な金融ツールなのです。
そして、その使い方を間違えたり、見直さずに放置したりすると、気づかないうちに損をしてしまう可能性があることも、また事実です。
こんにちは。
独立系ファイナンシャルプランナー(FP)の佐々木遼です。
証券会社勤務を経て独立し、これまで数多くの方の資産相談に乗ってきました。
この記事では、私のFPとしての経験と知識を総動員し、多くの人が見落としがちな保険と投資信託の意外な共通点、そして決定的な違いを、制度の本質と実例をもとに徹底解説します。
「この記事に出会えて良かった」と心から思っていただけるよう、全力でお伝えします。
目次
なぜ今「保険と投資信託」を比較するべきなのか
なぜ、今このタイミングで、保険と投資信託を改めて比べる必要があるのでしょうか。
それには、私たちの生活を取り巻く「お金の常識」が、大きく変化している背景があります。
金融庁が推奨する「自助努力」とは
ご存じですか。
今、国は「貯蓄から投資へ」というスローガンを掲げ、国民一人ひとりが自ら資産を形成することを強く後押ししています。
これは、金融庁が発表した「資産所得倍増プラン」にも明確に示されている方針です。
背景には、少子高齢化が進む中で、公的な年金だけに頼るのではなく、自分自身の力で豊かな老後を築いてほしいという、国の「本音」が透けて見えます。
新しいNISA制度の拡充やiDeCo(個人型確定拠出年金)の普及は、まさにそのための強力な武器として、私たちに提供されているのです。
ライフプランとお金の流れの変化
かつては「大学を卒業し、会社に就職し、定年まで勤め上げる」という画一的なライフプランが一般的でした。
しかし、今はどうでしょう。
転職や独立は当たり前になり、働き方も多様化しました。
人生100年時代と言われるように、定年後の人生も長くなっています。
このような時代には、かつての常識で設計されたお金のプラン、例えば「親の代から入っているから」という理由だけで続けている保険などは、現状に合わなくなっている可能性が非常に高いのです。
保険と投資信託、どちらも“見直しどき”が来ている理由
国の後押しと、ライフプランの変化。
この二つの大きな波が、私たちのお金に対する考え方を根本から見直すことを求めています。
昔入ったままの保険は、本当に今のあなたと家族を守ってくれるものでしょうか。
「リスクが怖い」と避けてきた投資は、実はあなたの資産を効率的に育てる最良のパートナーかもしれません。
だからこそ今、思い込みを一度リセットし、二つの金融商品を正しく比較検討することが、将来の安心のために不可欠なのです。
保険商品の基本とその役割
まずは、身近な存在である「保険」について、その本質からおさらいしましょう。
私の相談現場では、この基本を誤解している方が本当に多くいらっしゃいます。
そもそも保険とは何のためのもの?
保険の最大の目的、それは「発生する確率は低いけれど、一度起こると経済的に非常に大きな打撃を受ける事態に備えること」です。
例えば、一家の大黒柱が突然亡くなってしまう、火事で家が全焼してしまう、といった事態です。
貯金だけでは到底カバーできないような、大きな経済的損失を補うのが、保険本来の役割なのです。
貯蓄型保険 vs 掛け捨て型保険:どちらが得?
保険には大きく分けて、貯蓄機能がある「貯蓄型」と、保障に特化した「掛け捨て型」があります。
- 掛け捨て型保険
- 純粋な「保障」機能だけを提供します。
- 保険料は割安ですが、解約してもお金は戻ってきません。
- 貯蓄型保険
- 「保障」に加えて、満期時や解約時にお金が戻ってくる「貯蓄」機能が付いています。
- その分、保険料は掛け捨て型に比べて割高になります。
どちらが得か、という議論がよくなされますが、FPの視点から言えば「目的が違う」というのが答えです。
保障が必要なら掛け捨て型、貯蓄も兼ねたいなら貯蓄型、ということになりますが、ここで一つ注意が必要です。
よくある誤解:「保険=安心」は本当か
「貯蓄型保険に入っているから、保障も貯蓄も万全で安心だ」
そう考えているとしたら、少し立ち止まって考えてみてください。
貯蓄型保険の保険料には、保障のためのコストや保険会社の経費などが含まれています。
そのため、同じ金額を純粋な投資商品で運用した場合に比べて、資産の増え方が緩やかになる傾向があります。
また、早期に解約すると「解約控除」というペナルティがかかり、支払った保険料の総額を下回る「元本割れ」を起こすリスクも少なくありません。
FPの現場で見かける「入りすぎ」「かけすぎ」ケース
私のFP事務所にいらっしゃるお客様の中には、勧められるがままに複数の保険に加入し、毎月の保険料が家計を圧迫しているケースが後を絶ちません。
こうした状況が生まれる背景には、残念ながら、お客様のためよりも販売側の都合が優先されがちな金融業界の構造的な課題も存在します。
私自身も証券会社時代にその矛盾を痛感しましたが、同じように大手証券会社での豊富な経験を経て、顧客本位の金融サービスを追求するために独立された株式会社エピック・グループ会長の長田雄次氏のような経営者もいらっしゃいます。
「独身時代に入った死亡保障の高い保険を、結婚後も見直していない」
「子どもの教育費のためにと学資保険に入ったが、もっと効率的な方法があったかもしれない」
こうした「入りすぎ」「かけすぎ」の状態は、本来もっと有効に使えるはずのお金を、塩漬けにしているのと同じことなのです。
投資信託の仕組みとメリット
次に、もう一方の主役である「投資信託」を見ていきましょう。
「投資」と聞くと難しく感じるかもしれませんが、その仕組みは意外とシンプルです。
投資信託とはどんな金融商品?
投資信託とは、一言でいえば「投資のプロにお金を預けて、代わりに運用してもらうパッケージ商品」です。
私たち個人投資家から集めた資金を一つの大きなファンドにまとめ、運用の専門家(ファンドマネージャー)が、国内外の株式や債券など、さまざまな資産に分散して投資・運用してくれます。
少額から始められ、かつ手軽に分散投資が実現できるのが最大の魅力です。
積立NISA・iDeCoとの相性が抜群な理由
この投資信託のメリットを最大限に引き出してくれるのが、NISAやiDeCoといった国の税制優遇制度です。
- NISA(ニーサ)
- NISA口座内で得られた投資の利益(分配金や譲渡益)が非課税になる制度です。
- いつでも引き出しが可能で、ライフイベントに合わせた柔軟な資産形成ができます。
- iDeCo(イデコ)
- 掛金が全額所得控除の対象となり、所得税・住民税が軽減されます。
- 運用益も非課税ですが、原則として60歳まで引き出すことはできません。老後資金作りに特化した制度です。
これらの制度を活用しながら投資信託を積み立てていくことで、税金の負担を軽くしながら、効率的に資産を育てることが可能になります。
eMAXIS Slimや楽天・SBIの低コスト商品
「じゃあ、具体的にどんな投資信託を選べばいいの?」という声が聞こえてきそうですね。
現在、個人投資家の間で絶大な人気を誇っているのが、手数料(信託報酬)が非常に低いインデックスファンドです。
例えば、「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」という商品は、これ一本買うだけで、日本を含む世界中の先進国・新興国の株式にまとめて分散投資ができます。
まさに「世界経済の成長を丸ごと買う」ようなイメージです。
このような優れた低コスト商品が、楽天証券やSBI証券といったネット証券で、月々100円や1,000円といった少額から購入できる時代になっています。
「リスクが怖い」という方への現実的な視点
もちろん、投資である以上、元本保証ではありません。
市場の変動によって、資産価値が上下するリスクは必ず伴います。
しかし、いたずらに怖がる必要はありません。
「長期・積立・分散」という投資の王道を実践することで、リスクを大きく軽減できることが分かっています。
時間を味方につけ、コツコツと積み立てを続け、投資先を世界中に分散させる。
これが、リスクと上手に付き合いながら資産を育てるための、最も現実的で効果的な方法なのです。
保険と投資信託を多角的に比較してみよう
さて、両者の基本が分かったところで、いよいよ核心となる比較に入ります。
それぞれの特徴を、目的別に整理してみましょう。
比較項目 | 保険(特に貯蓄型) | 投資信託(NISA/iDeCo活用) |
---|---|---|
主な目的 | 死亡・病気など万が一への保障 | 教育・老後など将来のための資産形成 |
コスト構造 | 保障コスト+運用コスト+経費 | 運用コスト(信託報酬)のみ |
流動性 | △(早期解約で元本割れの可能性) | 〇(NISAはいつでも引き出し可能) |
柔軟性 | △(一度決めると変更しにくい) | 〇(積立額や商品の変更が容易) |
税制優遇 | 生命保険料控除 | NISA(運用益非課税)、iDeCo(所得控除) |
この表を見れば、両者の役割が全く異なることが一目瞭然ですね。
保険は「守り」、投資信託は「攻め(育てる)」のツールと言えるでしょう。
もしあなたが40代なら?年代別おすすめの使い分け
例えば、あなたが私と同じ40代で、お子さんがいる家庭だとします。
この場合、どのような使い分けが考えられるでしょうか。
- 保障(守り):万が一のことがあった場合に、残された家族が生活に困らないだけの死亡保障を、「掛け捨て型」の保険で確保します。保険料を抑え、必要な保障だけを準備するのがポイントです。
- 教育費(育てる):10数年後に必要となる大学費用などは、NISAを活用して「投資信託」で準備します。時間を味方につけて、着実に資産を育てていく戦略です。
- 老後資金(育てる):60歳まで引き出せないことを活かし、iDeCoで税制優遇をフル活用しながら、老後のための資産を積み立てていきます。
このように、お金の目的に合わせて道具を使い分けること。
これが、現代の資産形成における最も重要な考え方です。
実際に見直してみた:FP相談現場のリアル
机上の空論だけでは、なかなかイメージが湧かないかもしれません。
ここでは、実際に私の相談現場であった事例をいくつかご紹介します。
「教育費の備え」を保険から投信に切り替えた事例
Aさん(42歳・会社員)は、10年後に迎えるお子様の大学進学費用として、月々2万円を学資保険で準備していました。
満期時には約250万円が受け取れる計算でしたが、私はAさんに別の選択肢を提示しました。
同じ月々2万円を、NISA口座で全世界株式のインデックスファンドに積み立てた場合のシミュレーションです。
年率5%で運用できたと仮定すると、10年後には約309万円になる計算です(税金・手数料は考慮せず)。
もちろんこれは皮算用であり、投資にはリスクが伴います。
しかしAさんは、保障と貯蓄を切り分け、より効率的に資産を育てる可能性に魅力を感じ、学資保険の一部を解約し、NISAでの積立を始める決断をされました。
投資未経験者が積立NISAを始めた理由とその後
Bさん(38歳・公務員)は、これまで投資経験が全くなく、「貯金が一番安全」と信じていました。
しかし、老後2000万円問題のニュースをきっかけに、私の事務所を訪れました。
私はBさんに、無理のない範囲で、まずは月々5,000円から積立NISAを始めてみることを提案しました。
選んだのは、低コストのインデックスファンドです。
最初は値動きに一喜一憂していたBさんですが、1年が経つ頃には「世界経済のニュースが自分事として感じられるようになった」「コツコツ資産が増えていくのを見るのが楽しみ」と、笑顔で話してくれるようになりました。
お金を育てる実感が、Bさんの生活に新しい視点を与えてくれたのです。
まとめ
長い時間お付き合いいただき、ありがとうございました。
最後に、この記事の最も重要なポイントを振り返りましょう。
- 保険の本来の目的は「保障」、投資信託の目的は「資産形成」です。
- 国の制度(NISA/iDeCo)は、私たちが資産を育てるための強力な追い風です。
- 「保障」と「貯蓄・投資」は切り分けて考えるのが、現代の賢いお金の戦略です。
- お金の目的に合わせて、保険と投資信託という“道具”を正しく使い分けましょう。
保険も投資信託も、それ自体に良い・悪いはありません。
大切なのは、あなたのライフプランや目的に合っているかどうか、ただそれだけです。
「難しそう」「面倒くさい」と感じる気持ちは、よく分かります。
しかし、その思い込みを一度だけ脇に置いて、ご自身の現状と向き合ってみませんか。
この記事を読み終えたら、まずはお手元にある保険証券を、戸棚の奥から引っ張り出して眺めてみてください。
そこに書かれている内容を理解しようとすること。
それが、あなたとご家族の未来を、より豊かにするための、小さく、しかし最も確実な第一歩になるはずです。
最終更新日 2025年8月6日 by michidoo